マザーテレサになりたかった

ADHD,うつ,HSP,パンセクシャル,ポリアモリー,一児の母,毒親育ち。生きづらいのフルコース。なんとか楽しく自己肯定感上げてきたいね。口が悪いです。

10年好きだった人に子供が生まれた、そして私は

 

高校生の頃、「八日目の蝉」という映画が大好きだった。

永作博美演じる女に共感したからだ。憧れた。自分には未来があって夢があって大切な人がたくさんいるからできないけれど、私も好きなひとの子供を自分の子供にしてしまいたい。そうずーっと思っていた。

 

不倫相手の赤ちゃんを誘拐し、捕まるまで逃げ続けた女(永作博美)と、その自己愛を母からの愛と刷り込まれ、「二度」母からの離別を強いられた不幸な娘(井上真央)の逃避行。怖い、気持ち悪い女を演じれば天下一品、美人なのにやけに庶民の生々しさを持つ永作博美の狂気から、話題作になったと記憶している。

 

この映画の表面は、ホラーだ。親からしたら赤ちゃんを誘拐されるなんてたまったもんじゃないし、実母からしたら自分以外の女を母と認識するなんて絶望。実のお母さんと再会するとき、子供は永作を見つめ離れたくないよお母さんと言うのだ。許せないよね。

 

十年好きだったひとがいた。出会ったころからずっと想い続け、いつか結婚できると信じていた。愛を磨いていれば、いつか神様が味方してくれると。それが難しいなら、付き合いたい。付き合うのが無理なら、せめて一夜だけ。

それすらもできないなら、自分の夢を自分のかわりに叶えた女と、善人のかたまりみたいな顔をして誰からも好かれる彼に、憎しみを与えてやりたい。憎むという行為はきっと美しくないから、美しくない感情でいっぱいにしてやりたい。でも、愛と憎しみを紙一重にするなんて愚かで低俗。だから行動には移さない。

行き場を失った感情は胸の奥にこんこんと眠り続け、いつか自分が他の誰かと結婚式を挙げるときに、涙としてあふれ出すんだろうと思っていた。

 

その彼に先日子供が生まれた。ああ、良かった、と心から思った。

好きだったひとが幸せだからじゃない。

彼の幸せになんてもうまったく興味がない。私自身が幸せだったからだ。

 

私は彼よりわずか数か月早くに、結婚も出産もした。もし、未だ独身で、社会にもまれ孤独を感じていたならと考えるとぞっとする。彼のことを考え続けた十年がただの無駄になる。

断ち切りたい恋があるならそいつより早く幸せになることが手っ取り早い未練の葬式。

 

私が生んだのは男の子だった。女か男かそれ以外かなんてどうでもいい、子供はみんな等しく尊くて美しい。

でも息子が男であったことによって、救われた部分もある。

 

私はパンセクシュアルを自称している。これについてはいずれ詳しく述べたいと思っているが、ひとを好きになることに性別やセクシャルは関係ない(同性愛とはちょっと違うのが難しいところ)という性癖なので、女の子を好きになったことはもちろんあるし、そういえばファーストキスも女の子だった。

でも男を好きになることのほうが数としては多かったし、それでいっぱいいっぱいで、女の子に踏み込む勇気はなかった(し、そもそもタイプをあげるなら男好き系が好きだからいいなと思う前から可能性ゼロ)から女の子との恋愛経験はなくて、ずっと男に泣かされてきた。いい思い出もいやな思い出も男とばっかりだ。それをぜーんぶ、肯定してくれた。この子に出会うために今までの苦しみがあった、そんなお花畑なセリフが本気で吐ける。

そしてこの子に出会わせてくれた夫にも同じ気持ちだ。二人とも尊い。手を合わせるくらい。女の子だったら一生一緒にいられるけれど、男は早くてもう小学生から外の世界に行ってしまう。だからかわいいかわいいなんて言えるのはほんと、今のうちだけ。

 

その先に、男になって、社会をつくって、大人になって、誰かを愛する息子がいる。その「大人の男」のために、私はいる。

食べさせるだけではなくて、いつだって圧倒的味方。信用できる大人。

そうならなきゃいけないし、そうなるのには努力が必要だけど、その立場を一応許してくれる男なんてね、他にはいないよ。

 

 
映画のラストは覚えていないんだけど、原作の小説では、誘拐した女に一匙の救いがある。
好きなひとの子供を薫と名付けて、心から愛して、その愛は自己愛だから、犯罪者として裁きは受けるけれど。薫という偶像を心の支えにしてたった一人で生きていく女と、大人になった薫(本名はえりな)がすれ違う。
互いに気づかないが、それは作者による、叶えられなかった愛を弔う人々への思いやりだとも思うのだ。
 
久しぶりに読み返して、わんわん泣いた。そしてこんな女だった私を、結果として肯定してくれた息子にありがとうと言った。
彼の娘の名前に、薫という文字が入ることにも、なんの偶然も意味もないただの笑い話。悲哀の自嘲でなくて、ただおかしくて笑ったら、まだなんにもわからない息子も笑った。
ああかわいい。ありがとう。彼の存在をだしにしなくたって、あなたと、そしてあなたのお父さんは、とっても特別で素敵なんだと言い続けよう。
 

 

八日目の蝉

八日目の蝉

 

 

八日目の蝉 (中公文庫)

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